大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(ラ)191号 決定

抗告人

秋元豊三郎

右代理人

尾崎陞

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。抗告人を処分しない。」との裁判を求めるというのであり、抗告の理由は、別紙記載のとおりである。

記録によれば、抗告人が代表取締役であつた京葉写植株式会社(以下「本件会社」という。)の取締役及び監査役(以下、両者をあわせて「役員」という。)の全員は、昭和五三年六月三〇日限りその任期が満了したところ、同日開催された本件会社の定時株主総会において、役員の任期満了による後任者選任の議案が附議されたが、継続審議となり、同五四年六月三〇日の定時株主総会において、再度同一議案が附議されて、新役員の選任(旧役員全員の重任)の決議がなされ、同年七月一二日旧役員の退任及び新役員の選任の各登記がなされたことが認められる。

右のように、会社の役員の任期満了による退任のため法定の員数の役員が欠けるに至る場合には、その当時の会社の代表取締役は、その業務の執行として、新役員選任の手続をなすべく、自己の任期満了後も商法第二六一条第三項、第二五八条第一項により引き続きその義務を負うのであり、役員の選任は株主総会の決議事項ではあるが、代表取締役としては、適時に株主総会を招集して、旧役員の退任後遅滞なく現実に新役員が選任されるようにことを運ぶべきであつて、かかる措置を尽くさなかつたときは、商法第四九八条第一項第一八号にいう「選任手続ヲ為スコトヲ怠リタル」ことになるものというべきである。したがつて、このような場合には、代表取締役は、一度定時株主総会において役員選任の議案を附議すれば足りるというものではなく、いつたん同議案を附議した株主総会において、選任の決議をみるに至らないで、同議案が継続審議とされたときは、そのこと自体は代表取締役の責に帰すべからざることであつたとしても、漫然次期の定時株主総会を待つことなく、可及的速やかに臨時株主総会を招集するなどして、早期に新役員が選任されるような手段を講ずべきであるといわなければならない。しかるに、本件においては、旧役員の任期満了の日から新役員選任決議のなされた定時株主総会の日までに一年を費し、その間臨時株主総会を招集するについての法律上又は事実上の障害があつたことを窺わせる資料はなく、そのほか選任に長期間を要するについて宥恕すべき事由があつたものとも認められないのであるから、抗告人は、役員選任のためになすべき手段を講じないで、漫然一年を経過したものというほかはない。

したがつて、抗告人は右の期間本件会社の役員選任の手続をなすことを怠つたものと認めるべきであるから、商法の前記規定を適用して抗告人を過料に処した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。よつて、主文のとおり決定する。

(沖野威 野田宏 藤浦照生)

〔即時抗告理由書〕

原決定には事実を誤認し、法令の解釈適用を誤つた違法があるので取消を免れない。

一、原決定が適条として掲げた商法第四九八条には、過料に処せられる行為として第一条第十八号に法律又は定款に定めたる取締役又は監査役の員数を欠くに至りたる場合に於て其の選任手続を為すことを怠りたるときという規定がある。取締役および監査役の選任手続は、株主総会においてされるから、右法条にいう選任手続とは、取締役又は監査役選任のための株主総会の招集又は総会における選任に関する議案の附議をいうものと解するを相当とする。

選任そのものではないのである。

二、本件において異議申立の対象となつた原裁判所の昭和五五年一〇月三一日付過料決定によれば、決定の理由とされた事実は、被審人が代表取締役に在任していた京葉写植株式会社の役員が昭和五三年六月三〇日退任し法定の員数を欠くに至つたのにその選任手続をなすことを昭和五四年七月一二日まで怠つたというのである。

昭和五三年六月三〇日退任したのは設立と同時に就任した最初の取締役および監査役の全員であるが、これらの役員の後任者の選任については、同日開催された定時株主総会において、第二号議案として附議された。

従つて、このことによつて、前記法条の「選任手続」がなされたものといわなければならない。

三、もつとも、右議案は右株主総会では結果が得られず、継続審議となり、異議申立書に記載したような事情により、昭和五四年六月三〇日開催の継続株主総会において選任がなされ、選任手続が終結したのであるが、このことは、「選任手続」が右選任の日まで懈怠されたことにはならないのである。

四、また、株主総会議案の審議の経過および結果は、株主の問題であつて、代表取締役の問題ではないので、そのことについて代表取締役の責任を問うことは妥当ではない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例